
MIC工房代表 前田勝利さん / 飲食店勤務 前田庸さん

価値は自分が決める
福岡市で金曜日と土曜日にひっそりと開く「けやき通りギャラリー106」は、知る人ぞ知るギャラリーです。ここに並ぶモノたちの来歴はさまざま。作家が作ったもの、国内外の旅で見つけた民具、道端で拾ったもの(!)が混在していて、そのどれにも値札はなし。気になるものがあれば、自分で訊ねるシステムです。フラットに並んだそれらを見ていると、「あなたはどれがいいと思うの?」「それはなぜ?」と聞かれている気がしてきます。そしてそれを自分で決められるのが心地よいのです。
このギャラリーのオーナーは、前田勝利さん。福岡の様々なユニークな店舗の内装を手掛け、自らも創業39年を迎えたスリランカレストラン「ヌワラエリヤ」や「ツナパハ」を営みます。前田さんの「理屈じゃないの。いいものは匂うんだよ」という嗅覚によって集められた品々が並ぶ空間は、まるで彼の頭の中に迷い込んだよう。

その前田さんのお眼鏡に叶ったのが、マオパンツです。まだマオパンツが誕生間もない18年前、店舗のショーウィンドーに飾られているのを見て購入。以来チノやデニム生地などいろんなマオパンツを10着ほど愛用してきました。あまりユニセックスという概念がなかった当時、「これはよさそうだ」とワードローブに加えました。
「ウエストがゴムで締め付けがなく、ゆったりと足が動きやすいのが気に入っている」と前田さん。自然素材の着心地のよさと、そしてなにより様々なアイテムと合わせやすいのが、日々活躍する理由です。この日もビビッドな色のスニーカーとよく似合っていました。

ある程度なじんできたマオパンツは、娘の庸さんにお下がりとして渡されます。自転車に乗って通勤し、飲食店で働く庸さんにとって、丈夫さは必須条件。「ジーンズは2年くらいで破れちゃうんだけど、マオパンツは5年くらい大丈夫」と太鼓判を押します。今日の一本も、漂白剤が飛んで色ムラになった様子すら、いい味を醸し出しています。「ガシガシと洗ってはいてを繰り返していると、綿なのにまるでヤギ革みたいになめらかになるから、びっくり」と庸さん。

patina(パティナ)という言葉があります。時間が経過し、使い込むことで生まれる、自然な変化や風合いを指します。ピカピカに新しいものではなく、色あせ、柔らかくなり、持ち主の身体に沿うような変化を楽しむ。マオパンツに生まれるpatinaは、単なる「古さ」ではなく、日々の仕事や暮らしから滲み出してきます。前田さん親子のまわりにはpatinaがたくさんあります。古い道具や錆びた鉄片、そしてはきこんだマオパンツ。誰かに決められた正解ではなく、自分の「いい」という感覚に従う。それは、とても自由で、豊かなことなのだと感じさせてくれます。
写真:穴見春樹
テキスト:浅野佳子